第2話

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 式が終わって保健室に寄ってみたが、そのドアは鍵がかけられていてビクとも動かなかった。校門を出た直後に前島がすっと俺に近寄ってきた。そして聞き取れるかどうかの小さな声で言った。 「松陰君。園田先生の転任先って、大江戸水産高校だそうよ」  俺は一瞬呼吸が止まった。東京では知らない者はない、超底辺校で年に最低10回は警察沙汰を起こしているという、札付きのワルが集まった問題高校じゃないか? そんな所に女の先生が、それも若い先生が赴任したら三日目までには100パーセントの確率でレイプされるって噂だぞ。 「な、なんでよりによって園田先生がそんな学校に?」  思わず大声を上げかかった俺を今度は前島がシッと制した。 「あたし聞いた事がある。日教連に逆らった先生は、自分から教師を辞めざるを得なくなるような学校に転任させられるって」 「ちょっと待てよ。日教連は先生たちの労働組合だろ? そんな事が……」 「出来るのよ。どこの学校でも校長先生とか、偉い人は日教連ともめたくないから、日教連から強く要求されたら言うとおりにするしかないって」 「じゃあ、園田先生は日教連に逆らったせいで、それであの不良だらけの高校へ?」 「松陰君、とにかくこれから園田先生にアパートに行ってみない?」 「え? そりゃいいけど、住所知ってんのか?」 「うん、前に保健の資料を先生の家から運ぶのを手伝った事があるから。電車に乗って駅から歩いて10分ぐらいの所」 「そうだな、分かった。行こう。先生にさよならの一言も言えないなんて、それは俺だった納得できねえもんな」  先生のアパートには簡単にたどり着いた。だがアパートの前には十人もの男たちが陣取っていて俺たちは中に入れなかった。そのうち半分は俺たちの学校のセンコーだった。園田先生の引っ越しを手伝いに来たと言ってたが、いくら何でも手回しが良すぎじゃねえか?  口下手な俺のかわりに前島が必死にかけ合ったが、ついに園田先生には「今あの人は忙しい」の一点張りで会わせてもらえなかった。結局追い返されて、とぼとぼと帰路に着いた俺の横で前島がすごく真剣な顔でつぶやいた。 「先生が言っていた事態になったのよ。あたし行かなきゃ、あそこへ」
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