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光も音もない。
四方を石壁に囲まれた地下室。
ここに連れてこられて何日が経ったんだろう…。
わからない。
何年も経ってるかもしれないし、何日も経ってないのかもしれない。
ただずっと部屋の角に座って、ご飯を運んでくるメイドを待っている。
…話しかけても返事はしてくれないのだけど。
あるとき、気づくと歩けなくなっていた。
手足はカリカリに痩せてしまって、スプーンを持つ手が震えた。
どうしてこんなことに…なっちゃったのかな…
火を司る名家、戦の一族、イグニース家の長女として、また次期当主としてわたしは生まれた。
かつて火神ロキの加護を受けたと伝わるイグニース家は、これまで一流の火魔法の使い手を数多輩出してきたらしい。
でも神様はわたしに魔法の才能をくれなかった。
まったくないわけじゃない。
同い年の友だちと比べても、まぁ…少しニガテってところだけど…
イグニース家の歴代当主と比べればゴミだったらしい。
そしてなにより…
わたしは怖かった…
戦いが。
人々を魔族から守るというイグニース家の責務が。
訓練だ、といってわたしをいたぶる父さまの冷たい目が。
だから、わたしは逆らった。父さまに。生まれて初めて。つい我慢できず。言ってしまった。
もう戦うのは嫌だって。
そして今、わたしはここにいる。
あの日から、わたしはこの石に囲まれた牢獄以外の景色を知らない。
父さまも母さまも一目さえわたしを見に来ない。
きっとあの人たちの中でわたしは死んだんだ。
それでもいい。
いっそ忘れて欲しい。
恨む気にはなれない。
期待に応えられないわたしが悪い…。
―――だからわたしは願う。
生まれ変わるなら、せめて男になりたいと。
もっと強く、かっこよく、物語に出てくる英雄みたいに生きてみたいと。
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