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「藤原さん」
会社規定の制服から私服に着替え終わった瞬間。
まるで見計らったように同僚の小田博美に声をかけられ、佳奈子はゆっくりと振り返った。
「…………え?」
「今からちょっと、時間ある?」
いつも明るい表情の博美が、今はヤケに深刻な顔をしている。
佳奈子は戸惑いながら、博美の顔を見返した。
「ちょっとって……」
「30分ぐらいでいいから」
「………別に、大丈夫ですけど」
首を捻りながら頷くと、ますます博美の顔が強張った。
二人は続けてタイムカードを押す。
「お疲れ様でしたー」
「はい、お疲れー」
事務を取り仕切る女上司に声をかけると、いつもの返事が帰ってきた。
博美が先にドアを開け、佳奈子はその後に続く。
(………何だろ。珍しく怖い顔して……)
あまり見ないような博美の様子に、佳奈子の胸に小さな不安がよぎった。
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