あなた

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私ったら、布を買いに行ったとき、ついついあなたの浴衣の布まで選んじゃったの。 ばかよね。 着れないのに……」 女はそこで声を詰まらせた。 鼻をすすり、再び話しだす。 「もう、最後にやっぱり姿くらい見せなさいよ! いいじゃない、それくらい。 罰はあたらないわよ。 見せてくれないなら、渡し舟の代金、置いてあげないからね! ……なんてね。嘘よ。冗談よ。 でもね、あなた…… あなた あなた あなた あなた あなた ……あなたに、会いたい」 泣き出した妻に、声をかけることも、ふるえる肩を抱いてやることも、もうあなたにはできませんでした。 側にいてやれるタイムリミットも迫っています。 お盆が終わろうとしていました。
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