あなた

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あなた

女はマッチをすると、線香に火をつけました。 赤い炎を手であおいで消します。 女は線香をたて、鐘を一回鳴らしました。 チーン 甲高い鐘の音が響きます。 手を合わせた女が見上げた仏壇には、まだ比較的新しい位牌がありました。 「ねえ、あなたもう帰るのね。 でも、あなたの家はここなのに、帰るっていうのも変ね。 ねえ、あなた本当に家に来てくれてたの? 姿が見えないんだもの、わからないわ。 姿くらい見せてくれたっていいじゃない。 ほら、この時期によくテレビで特集してるじゃない。 あなたも、姿を見せてくれたらよかったのに。 ああ、でもそしたら、あの子は怖がりだから嫌がるかしら。 ううん。 お父さんならきっとあの子だって嬉しいはずよ。 そうそう、あの子の新しい浴衣を見てくれた? 私が縫ったのよ。 私はもっと大人っぽい柄のほうがいいって言ったのに、あの子ったらあんな派手なヒマワリ柄を選んで。 ……でも、似合ってたけどね。
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