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「蒼夜(あや)…」
私を呼ぶ、優しい声。
「おいで、蒼夜…」
風に揺れる、綺麗な長い黒髪。
私を包む、温かい腕。
女性ならではの柔らかな感触。
その人の胡座の上に座り、その人の不思議な香りに包まれながら、私は言った。
「なあに、 ?」
その人の名前を口にすると、その部分だけが抜け落ちたかのように、私の声が聞こえなくなった。
「蒼夜、お前にはこの先、とても悲しいことが起こる。とても悲しくて、とても寂しいことがな。それを覚悟しておくといい」
「かくご?」
舌回らずな言葉で聞き返すと、そうだ、と返ってきた。
「お父さん、お母さんの言うことをちゃんと聞いて、翔大(しょうだい)にも優しくするんだぞ」
「うん!あや、おねえちゃんだから、しょうちゃんにやさしくする!」
弟の名前を出されて、胸を張って答えると、面白そうに笑われ、頭をなでられた。
「そうだな、お姉ちゃんだもんな。蒼夜はお姉ちゃんだから、お父さんやお母さんの手伝いもちゃんとして、色々なことを学ぶんだぞ」
「え~、お勉強~?」
不満げな声を出すと、その人は苦笑して言った。
「まあ、勉強することも必要だが、私が言ったのは“学ぶ”ことだ」
「どうちがうの?」
違いが分からず、聞き返した。
すると、その人は真剣な顔をして言った。
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