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「それから、蒼夜。どんな時も感謝を忘れるな」
「かんしゃ?」
「ありがとう、と思うことだ。お父さんにも、お母さんにも、翔大にも、他のどんな人や物にも、ありがとうと思う気持ちを持つんだ。そして、そのありがとうを心だけじゃなく、言葉や行動で表すんだ」
「ありがとうって言うの?」
「心を込めてな。そうやって言葉や行動で表さないと、いずれ――必ず後悔することになる。このことも忘れず、心に刻んでおけ」
「わかった。わすれない」
真剣な顔だったその人は、私のしっかりした返事を聞いて、また笑顔に戻った。
次の瞬間、視界が歪み、今までとは別の光景が目に映る。
さっきまでの穏やかな雰囲気はない。
嵐の中、私が立ち尽くしている6、7間程先に、あの黒髪の人がこっちを向いて立っている。
不思議なことに、その人の地面は青白い光を発していた。
その上、私は風で勢いづいた雨によってずぶ濡れなのに対し、その人は全く濡れていない。
そして、微笑んでいる。
「 !」
その人の名を叫んで近づこうとするも、地面がぬかるんで上手く走れない。
そして、やっぱりその名を口にしても、声が抜け落ちている。
「蒼夜、そろそろお別れだ」
嵐の中で、叫んでいないにも関わらず、その人の声ははっきりと私の耳に届いた。
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