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「――――ぁぁぁああああっ!はあっ…!はあっ…!はあっ…!」
右手を前に突き出し、叫びながら飛び起きた私、八月一日 蒼夜(ほずみ あや)は、汗をびっしょりかき、息を荒くくり返していることに驚きつつ、また布団に倒れ込んだ。
天井を見つめながら、息を整える。
「夢か…」
懐かしい物を見た。
古い記憶。
雷があの人を奪っていく夢。
最近では全くと言っていいほど見なくなっていたのに。
何故だろう。
あまりに印象深かった為か、この古い記憶は夢となってまだ幼かったあの頃の私を苦しめていた。
そういえば、何時からだろう。
この夢を見なくなったのは。
視線を左に動かし、どこか手作り感のある木製の棚を見る。
硝子張りの扉の奥、5段ある内の下から3段目。
様々な笛が置かれている中で、龍が巻き付いているような模様を象った、紺青の古い横笛を捉えた。
あの笛は、名を“龍風雅(りょうふうが)”と言う。
あの人からもらった物だ。
あまりにも夢に見るものだから、本当に夢なんじゃないかと疑った時期もあった。
声も顔も、名前でさえも思い出せないのだから、無理もない。
でも、あの横笛を見るたびにあの人との思い出が蘇って、夢じゃないんだと思い直していた。
不思議なことに、あの人に言われたことや、あの人との思い出は、何故か鮮明に覚えている。
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