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車に乗り込む頃には、もうすっかり朝だった。
組合せ的にどうしても深山さんと話さなければならない状態が多くなり、
嫌な感じがして、そのまま帰りたかったが、
前方で美紀子たちが初詣の後で先生の家でおせちを食べるという計画で盛り上がり、
結局それに便乗することになってしまった。
嫌そうな顔を見せたのだろうか。
小声で「イヤならイヤと言えばいいのに」と耳元でささやかれ、
ふと見上げると、深山さんはまた、笑っていた。
ほんとに、感じが悪い。
自分でもわかっている。
できのいい弟を持ってしまうと、性格がゆがんでしまうのかもしれない。
弟だけでない。家族全体なのかな。
弟中心の家族だから、私の都合は二の次になる。
私を一番に見てほしいと思っても、私は後回しになってしまう、
そういうことがわかってきて、家族の中でうまく立ち回るために、
人に合わせたり、人の機嫌を取ろうとしたりしてしまうのかな。
だからここ半年の私の行動は、勇気のいることばかりだった。
先生が薦めてくれた女子大への推薦を断った。
母の母校でもあった女子大だったので、母はそれを知って激怒した。
何がしたい、何になりたいというわけでもない。
だけど、父や母が想定したレールの上を歩いていくのはイヤだと思った。
初めての反抗だったかもしれない。
女子大への推薦を改めて頼みに来た母を先生は時間をかけて説得してくれた。
「イヤならイヤと言えばいいのに」
もう一度、深山さんの言葉を反復してみた。
そして息を大きく吸った。
「ごめん。今日は初日の出で満足。初詣は家族と行くことにするわ」
思い切って大きな声で言うと、車に乗ろうとしていた美紀子たちは振り返った。
「そうなの?行かないの?」
「うん。一応受験生だしさ。美紀子たちは楽しんできて」
「佐々木が帰るなら、俺も帰るよ。受験生だし」と、言い出す水口君。
「佐々木さんのおうちまで送ってから初詣行けばいいわね。
そのあと、家に車を置いて初詣行きましょ…」と、采配しようとする先生の話を止めた。
「いいです。私、このまま電車で帰ります。
受験生がうろうろしすぎてると、父も母もうるさいし。
私の家、先生のおうちと反対方向だから遠回りになるし。
ごめんね、私のわがまま。受験のことけっこう心配になってきちゃったし」
包み隠さぬ本心。
本当は最後の追い込みをしなければいけないと思ってた。
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