寒い冬

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みんなと別れて二人になっても、とりたてて話すことはない。 初日の出を見終わって駅と神社に向かう集団に紛れながら歩いていた。 さっきは隣を歩いていたけれど、話すこともないから後ろをついて歩いていた。 ここでいいです、といつ言おうかと迷っていたとき、深山さんは足を止めた。 「何か飲む?」 自動販売機の前で足を止めた深山さんが言った。 ラインナップを見ていらないです、と首を振った。 結局深山さんだけコーヒーを買っていた。 何も言わないけど、寒かったのかもしれない。 私は完全防寒でマフラーも手袋もしているけれど、 深山さんは手袋もマフラーも車を降りてきた時に置いて来てしまったのか、持っていない。 買ったコーヒーは飲むわけではなく掌をあたためていた。 「ここまででいいですよ。私一人で帰れますから」 駅に着いたときに路線図を見上げる深山さんに向かって私は言った。 料金を探しながら 「そういうわけにはいかないね。とりあえず母さんと約束したわけだから」 と、答える深山さん。 「けっこうマザコンなんですね」 そう言うと、路線図から私に視線を移し明らかに深山さんは不愉快そうな顔を見せた。 一瞬、深山さんを弟に重ねた。 弟の言うことならなんでも聞く母や、 母の言いなりになる弟を思い出し、 思わず口走ってしまった。 「大学生にもなって、先生の言うとおりに運転手さんしたり、 見知らぬ私を送ったり、珍しい人ですよね。すごいですよね」 口では、感心したように装っている。 だけど明らかに、私の気持ちの中では、マザコンちっくな深山さんをバカにしていた。 深山先生がご主人をなくして、母一人子一人で生活しているのを知っている。 だけど、なんだか、嫌味をこめてしまったのは、自分の心がすさんでいたのか。 友人達には見せないような汚い一面をむき出しにしてしまったのは、 帰ってから直面する受験勉強に嫌気が差していたからなのか。 何も言わない深山さん。 私はさっきの不愉快そうな表情を見たあと、深山さんの顔を見上げることができなくなっていた。 深山さんの足元ばかりを見ていた。 「これ切符」 目の前に切符が差し出された。 「マザコンじゃ悪いかな。 うちは母親しかいないから、尊敬するのも信頼するのも母親だけだから。 その母親と約束したこと。母親に限らず、約束守るのは一般常識だろ。
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