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今まで笑っていた顔が、一瞬で泣き顔になった。
「…お兄ちゃんは、…お留守番、なんだ」
手をずらし、妹の頬を撫でる。
自分の言ったことに苦笑する。
もっといい言葉を見つけられなかったのか、と心の中で思った。
だが、騙すことになってしまい、俺はくしゃりと顔を歪ませた。
一緒に車に乗ることも、もう会うことすらないことを…
妹は、少し考えるように黙り、そして口を開いた。
「そっかあ、…おにぃ、ちゃんは、おるしゅばんかあ」
二歳の妹には、これで通用したらしい。
「…うん、お留守番。いい子にしてるんだぞ?」
「…おにぃ、ちゃんがおるしゅばんしゅるんだから、いーこにしゅるのはお、にぃちゃん、でしょ?」
俺はぽかんとした。
確かに、妹の言う通りだと思った。
九歳も離れている妹に、教えられるとは。
ハハ、と俺は笑った。
「そうだな、おまえの言う通りだ。すごいなあ」
俺は、今度は妹の頭を、クシャクシャッと撫でた。
えへへーと、頬を紅くして、妹も笑っていた。
そんなことをしているうちに、母が戻って来た。
母は俺たちと少し離れて、少し悲しそうに佇んでいた。
俺はそれをちらりと横目で見やり、妹の頭をぽんと軽く叩いてその場を一歩離れた。
「…あ、おかー、さん!」
離れた俺を不思議そうに見た後、横に居た母に気づいて妹は笑った。
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