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「遅くなってごめんね?」
母は妹と同じ目線の高さまで屈み、ふわりと笑った。
その光景に、俺の胸はズキリと痛んだ。
妹には、そんな表情ができるんだな。
俺にそんな顔を向けてくれたのは、いつまでだったかな。
俺は自嘲気味に心の中で笑った。
何を今更…こんなことを考えているんだ。
俺は、見た目より大人びていると自分でも思う。
妹ができたから?いや、その前から俺は自分を隠していた。
俺がまだ小さい頃は、一般並みの家庭だっただろう。
親も暖かく笑っていただろう。
あまり良く覚えていないけれど。
物心ついたときにはもう、家には笑顔が減り、会話も減っていた。
俺は悩んだ。
どうして、お母さんとお父さんはこんな風になってしまったんだろうと。
だが、両親二人には、険悪な雰囲気は無かった。
俺だけ、なんだか仲間外れみたいな気分だった。
俺なりに頑張りはした。
いつも必死に笑顔でいて、母と父の間に入り、三人で会話をしようとした。
だが、俺がどんなに頑張ろうと、両親は少しも変わってはくれなかった。
自分は、恵まれて生まれた子供ではないんだなと、小さいながらも感じていた。
いつしか俺は諦め、機械的な日々を送っていた。
その頃からだろうか、俺の表情が消えつつあったのは。
そんなある日、俺の世界は大きく変わった。
俺に、妹ができた。
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