離ればなれ

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俺は妹の名を呼んだ。 だがやはり、返事が返ってくる筈もなく。 リビングには居ないので、俺は足下に注意しながら部屋を飛び出した。 妹を探しながら、俺は反省した。 いくら大人しいからといって、まだ機能が発達していないただの赤ん坊だ。 外に出ることは無いとはいえ、家には危険な場所がたくさんある。 玄関だって段差はあるし、角などに頭をぶつけるかもしれない。 色んな危険性を頭に浮かべ、俺は冷や汗が出るのを感じた。 リビングを出て、右にある玄関には居なかった。 俺は早足で左へ向き進む。 居ないことはわかっていても、トイレのドアを開く。 それくらいテンパっていたのだろう。 もう一度妹の名を呼んだ。返事が返らないとわかっていても、呼ばずにはいられない。 だがどうしたことか、俺の呼びかけに返事をするように、遠くから泣き声が聞こえた。 俺は驚いて玄関の向かい側にある、ドアが開いていたキッチンへ入ると、真ん中にある机の下に、妹が居た。 妹は小さい体でうずくまり、小刻みに震えていた。 いつもはため息が出る、妹の大きな泣き声も気にならず、一目散に近寄り抱きしめた。 妹は俺に必死にしがみつき、一際大きく泣いた。 その行動に俺は目を見開き、腕の中にいる妹を見た。 俺なんかのことを…頼ってくれるのか…? 今まで俺はこいつに、お兄ちゃんらしいことをひとつもしたことがなかった。 でも今、妹は俺の腕の中で、必死に主張していた。 俺は、今まで何をやっていたんだ…。 両親が共働きで、今、この家には俺と妹しかいないのに。 必死に頼ってくれていた妹に、今まで気づきもしなかった。 俺は妹の頭をそっと撫でる。 まだヒックヒックと泣いているが、大分落ち着いてきた。 背中を擦っていると、泣き止んだ妹が、俺の方を向いた。 目元が紅いのを見て、俺はくすっと笑い、妹の涙で濡れている頬を拭った。 すると、俺を見つめて、ふわっと笑った。 妹の笑顔なんて、何度も目にしている筈なのに、初めて、真正面から見た気がした。 鼻の奥がツンとなり、いつのまにか瞳に涙が溜まっているのに気がついた。 俺は目を瞑り、妹をぎゅうと抱きしめた。 .
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