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男が立っていた。右手には青く輝く短刀を、左手には黒く塗り潰された短刀を。
男の目の前には女がいた。両手で握り締められた日本刀の刃先が鈍く光っている。
相対する二人。始まりは刹那だった。先に動いたのは、男。左手を振りかぶり、女へと直進する。対する女は、刃先を浮かし中段の構えをとる。
間合いになると、日本刀を用いる女が有利。男が間合いへ入るや否や、すかさず突きを放つ。男も見越したのか、右へ体の軸をずらし、片袖の衣服を裂くだけに留め、女の懐へ飛び込む。と、意識を越えた無意識で両手の短刀を地面に突き刺し四つん這いになる。一瞬後に、今いた位置を刀が水平に薙ぐ。
「ほぅ、今のを避けるか」
響く声に反応も返さず、男は地面に刺した短刀の内、左を深く突き刺すと、その反動を利用し右の短刀を引き抜き、反す手で女に投げ射す。と同時に左を引き抜き女との距離をとる。案の定、女は鍔で短刀を弾いていた。
「楽しいなぁ。いや、実に楽しい」
静かな緊迫の中、女だけがゆらゆらと動いていた。
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