誰もいない

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「よし、諸君。ホームルームを始めるぞ。」 あご髭を触りながら号令をかける。 この担任教師は八木圭二(やぎけいじ)。27才の独身の男教師だ。頭がよく若手の中ではとくに優秀らしい。今時珍しい熱いハートを持っている。眼鏡とあご髭がトレードマークだ。ちなみにイケメンだ。 「さて今日のホームルームから進路の指導をしていくぞ。みんなもう高校三年だ。もうわずかな時間しか残されていない。どんな進路にしろみんなが望む形で卒業していってほしい。」 八木は生徒達を見まわした。 その真剣な眼差しにいつもは騒がしい生徒も静かに八木を見た。 「よく考えることが重要だ。これからのことを。そして今後の人生においても宝物になるこの高校生活という時間を大切にしてほしい。」 少し間をおいて八木は眼鏡をクイッと押し上げニヤリと笑った。 「そしてまぁ恋愛も、な。」 そういうと間髪をいれずに誰かがつっこむ。 「それは先生もな。」 クラスは笑いに包まれた。八木は微笑みながら進路相談の書類を配った。 「進路か。俺の成績ならたいがいの所は行けるだろうけど、やりたいことがないな。」 進学か就職か。まだ実感がわかない。考えてなかったわけでないが、実際の所よくわからないのが本音だった。
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