序章

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(  )「……私も、もう終わりか」 暗い研究室とも思える場所で、老人の声が響いた。 その右手には、拳銃。 その左手には―― (  )「やるべきことは全てやった。 やりたいことは全て終わってはいないが」 苦笑。 人影が無い冷たい空間で、老人は一人笑う。 (  )「さぁ、君はそろそろ行く時間だね」 左手の先に掴んだ小さな手。 その持ち主に老人は語りかける。 ( )「?」 (  )「君はね、きっとツライ未来が待っていると思う。 それは私のせいだ。 私を恨んでくれても……いや、むしろ恨むんだ」 ( )「…………」 (  )「だが、他の人を恨んじゃ駄目だ。 自分を恨むなんて持っての他……解るね?」 ( )「…………」 (  )「君には幸せになってほしい。 何せ、君は――」 老人の言葉が途中で切れた。 語りかけるべき人間がいなくなったからだ。 その左手の先には、もはや何も握られてはいない。 しばらく老人は何も握られていない左手を見つめ、そして呟いた。 (  )「――さよなら、だ」 暗い部屋に、火薬の破裂音が響いた。 後に残るは静寂。 音は一つも響くことは無かった。
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