序章

9/11
576人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
「それには海よりも深くみえて実はそうでもない事情があるのだが……聞いてくれるか?」 そうでもないのかよっ!? 殴りたくなる衝動を押さえ、純弥は無言で頷いた。口を開くと、ついつい罵詈雑言が飛び出してしまいそうだったから。 「……妾達妖怪は王の元、人間の様に社会を形成して生活していた」 どうやら、彼女が妖怪と言うこと前提の話らしい。 「しばらくは平和な時が続いていたんだが……やがて、“物の怪”と呼ばれる化け物達が、姿を見せ始めた」 「待て待て待て待て待て!」 話の急な展開に、思わず純弥は口を挟んでしまった。 「物の怪ってのは、お前ら妖怪とはどう違うんだ?」 「ふむ……」 彼女は一口お茶を飲み、続ける。 「私にも詳しくは分からんよ。ただ、物の怪と我々妖怪……妖は、全くもって別物だ」 彼女の話によると、物の怪というのは影のような見た目で、妖達を補食する化け物だという。 「それで、つい先日。私の父、ぬらりひょんが物の怪に殺られた」 「……ッ!」 思わず、息が詰まる。 物の怪は、妖を食べる。つまり、彼女の父親は……。 「そして本来なら、その娘である私が、王の座に着くことになっていた。だが、そこに一つ、問題が浮上する」 ピンッと、彼女は人差し指を突き出した。 折りてぇ。 そんな衝動を押さえ、話を聞くことに徹する。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!