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『郁夫』
「なぁアッコ、行こうぜぇ、胆試し」
俺がそう誘った時、章子は心底嫌そうに顔を顰めていた。
何故、彼女の意見をちゃんと聞かなかったのか……。どれだけ後悔しても、もう遅い。
「な、なぁ……頼むよ、助けてくれ。せめて彼女だけでも!」
俺は“あの女”に懇願した。
だが声が届いていないのか、女は気味の悪い笑みを浮かべながら、シンクの中に向かって、何やらブツブツと独り言を繰り返すだけだ。
「なぁ! 聞こえてんだろ?!」
どれだけ声を張り上げても応答は無い。
その内、無性に腹が立ってきて、ふと気が付くと、俺は怒りのままに声を荒らげ、女に向かって罵声を浴びせかけていた。
「おいコラ、クソアマ、てめえシカトしてんじゃねぇぞ、カス! こっち見ろや、ボケェ!」
すると女は、グニャリと歪に首を曲げ、漸くこちらを向いた。
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