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「何で……? 何でそんな汚い言葉を浴びせるの?」
右に左に、グラリ、グラリと首を揺らしながら、女は俺に近付いて来る。
その目はポッカリと穴が開いた様に虚ろで、俺と視線を合わせている筈なのに、まるで俺など見ておらず、別の何か……いや、誰かを見据えて話しているように思えた。
その時、頭部に衝撃が走る。身体が前方に大きく揺らいだ。
「かっ……!? あが……がっ……?!」
視界が捻れ、歪んでいく。後頭部に焼ける様な熱を覚えた。
「許さない……許さない、郁夫」
振り返るとそこには、頭上高くビデオデッキを掲げた章子が、見た事も無い形相を浮かべて佇んでいた。
「ア……アッコ、何で……」
しかし、俺の言葉が章子に届くよりも早く、無情のデッキが容赦無く振り下ろされる。何度も、何度も……。
「郁夫、郁夫! 許さない、許さない!!」
「ち、違う……俺は郁夫じゃ……」
自由を奪われた俺に、抗う術など無い。
やがて意識は、黒く閉ざされた。
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