『○○』

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 私は……誰だっけ?  拳が振り下ろされる度に、ゴーン、ゴーンと鈍い音が頭蓋に響き、一つ、また一つと、頭の中から何かが消えていく。そして最後に残るのは、淫靡な香りだけ……。  あぁ、気持ち好い……私はいま、犯されているのだ。人間らしさの欠片も無く、ただ獣の様に本能の赴くまま、アナタの白濁とした体液で汚されていく。  髪も、身体も、口内も、胎内も……。アナタに汚されていない部分なんて、一つも無い。 「あん……ああっ! 愛しているわ、郁夫さん」  だから今度は、アナタが私で汚れてほしい。 「ん、んんっ、お願い、中に……アナタの子供を産ませて!」  でも、アナタは首を縦には振らなかった。それどころか、真っ赤な光は黒く淀み、私の存在を完全に否定する。  ふと気が付くと、私の身体は快楽の泥濘から釣り上げられ、ビクン、ビクンと現実の中でぬたくっていた。  息苦しい。アナタの大きな両手が、私の首を絞める。  その時、私は漸く、自分が生きている人間なのだと実感出来た。  
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