『いくお』

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『いくお』

「嫌な場所ですね」  現場を見回しながら、山内がそう言った。この廃屋で遺体が見付かるのは、一年振りの事だ。  ここを訪れる若い連中は、どういう訳かこの家を最期の場所に選ぶ。しかも、決まってこの時期だ。寂れた雰囲気が、人を陰鬱な気分にさせるのだろうか?  おかげでここは自殺の名所としても、心霊スポットとしても、地元では有名な“観光地”になってしまった。全く迷惑な話だ。 「今年は何組になるんでしょう」 「出来れば、これで終わりであって欲しいがな」  運び出されていく二体の遺体を眺めながら、そう言葉を交わす。 「あ、そういえば、さっき鑑識から、ガイ者の物と思われる右腕が、電子レンジの中から見付かったと報告がありました」 「レンジの中? 何でまたそんな所に……」 「それが妙なんですよ。発見された右腕には加熱された形跡があるようで、沸騰した血液の内圧で皮膚が内側から破裂し、グチャグチャになっていたそうです」 「だが、ここには電気もガスも通っていないぞ」 「ええ、不思議ですよね。電源も無しに、一体どうやってレンジを作動させたのか……」  この現場では、毎回こういった奇妙な証拠が見付かる。  
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