『いくお』

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 去年は冷凍庫内から凍った眼球が、その前は洗濯機と乾燥機の中から、洗われた状態の人間の頭皮が、更にその前は……いや、思い出すのは止めておこう。  女が男を殺害し、バラバラに切り刻んだ後で、自身も後を追う様に自殺する、という無理心中の構図自体が既に猟奇的なのだから、それ以上の事は正直考えたくもなかった。  そんな俺の思考に、山内の声が不意に飛び込んでくる。 「不思議と言えば、ここもですね」 「……何がだ?」 「だって、何年もずっと空き家だった筈なのに、家電とかキチンと揃っているし、埃も被っていないなんて……まるで、昨日まで誰かが住んでいたみたいじゃないですか」  山内の言う通り、この廃屋には大抵の物が揃っていた。  テレビ、ビデオデッキ、冷蔵庫、コンロ、掃除機……。  最新式ではなかったが、どれもまだまだ使えそうな物ばかりだ。それらが室内に理路整然と据えられているのを見ると、不法投棄された物ではないという事も分かる。  
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