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時は過ぎ、放課後が訪れた。
夏目との約束のため早々に教室を出ようとした青の肩を叩くものがあった。
しかしその白い手は、なぜか人差し指を立てている。
「青」
「ん?」
ぐさっ。青の少年から青年に変わる頃の、微妙なほっぺたに細長い指が刺さっている。
「何すんだよ、粋衣」
きいと呼ばれた少女は、挑戦的に青を見上げている。
「今日、写真部の見学いくんでしょ」
「ああ、そうだけど」
なんで知ってるんだ?誰かに言ったっけかな…
「あたしも行くから」
じゃあ夏目も含めて3人になるな…
「…て、おい!何で粋衣も行くんだよ!」
「いいじゃない、別に」 やばい、大声出しすぎた。粋衣はそっぽを向いている。
「あたしが一緒じゃ嫌なの?」
その瞳が潤んでいるように見えるのは、気のせいだろうか。
冬原粋衣は夏目ほどではないが幼馴染みで、幼稚園から一緒だ。
昔は、周りから冷やかされたりして恥ずかし半分だったが、最近は滅法女らしくなって、色々と困る。
色々って何かって?
それは色々だ。
今も、ショートヘアの首筋から覗く首筋は真っ白で、邪念が青の頭の中を支配しそうになる。
いかん、いかん。邪念よ失せろ!
「そういう意味じゃなくてさ、何で写真部なんだろうなって」
粋衣は顔を正面に戻し、青に一歩近づいた。
「あたしの叔父さんがねハナガクの出身でね、写真部だったんだって」
それにね、と粋衣はまた一歩青に近づく。
他意は無いのだろうが、お年頃の青には少し…
睫毛結構長いな…恥ずかしそうにはにかむ唇から覗く右の八重歯なんか、可愛くなくもないかもな…
うっ、だから邪念消えろって!
「青が行くんだったら、あたしもって」
俺がって…
真意を測りかねた青は無言だったが、数秒のうちに口を開いた。
「わかった。これから夏目と待ち合わせなんだ。行こう、一緒に」
歩き出す青を粋衣は、やけに嬉しそうな顔で追っていった。
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