薄れゆく意識

2/3
前へ
/72ページ
次へ
彼との思い出はもっともっとたくさんあるけれど、鈍い音と共にあたしの体は地面に叩きつけられた。 凄まじい衝撃だ。 だけど先程同様、痛みは感じない。 すでに麻痺してしまっているみたい。 「クルミ」 彼があたしに触れる。 触らないほうがいい。 あたしの血がついてしまう。 綺麗な彼が、汚れてしまう。 彼はそんなことはおかまいなしに、いつものようにあたしを抱き抱える。 最期まで何て優しいのだろう。 止まらない出血。 地面に広がる血痕。 あたしはもう長くないんだ。 目の前の彼が霞んでいく。 大好きな彼が、見えなくなっていく。 「クルミ。俺が呼んだりしなければ……」 彼の涙があたしを濡らす。 違う。 それは違うよ。 最期に彼に名前を呼んでもらえて、あたしは幸せだった。 あたしがいなくても、彼はきっと大丈夫。 だから泣かないで。 あたしのために泣いたりしないで。 ずっと、笑っていて。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

111人が本棚に入れています
本棚に追加