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彼との思い出はもっともっとたくさんあるけれど、鈍い音と共にあたしの体は地面に叩きつけられた。
凄まじい衝撃だ。
だけど先程同様、痛みは感じない。
すでに麻痺してしまっているみたい。
「クルミ」
彼があたしに触れる。
触らないほうがいい。
あたしの血がついてしまう。
綺麗な彼が、汚れてしまう。
彼はそんなことはおかまいなしに、いつものようにあたしを抱き抱える。
最期まで何て優しいのだろう。
止まらない出血。
地面に広がる血痕。
あたしはもう長くないんだ。
目の前の彼が霞んでいく。
大好きな彼が、見えなくなっていく。
「クルミ。俺が呼んだりしなければ……」
彼の涙があたしを濡らす。
違う。
それは違うよ。
最期に彼に名前を呼んでもらえて、あたしは幸せだった。
あたしがいなくても、彼はきっと大丈夫。
だから泣かないで。
あたしのために泣いたりしないで。
ずっと、笑っていて。
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