111人が本棚に入れています
本棚に追加
「クルミ!危ない!」
振り返った瞬間、あたしは大きな衝撃を受けた。
痛みなんて感じる間もなく、体が宙に浮く。
ふわふわと、まるで空を泳いでいるよう。
いつか誰かの話で聞いたことがあったように、信じられないくらいスローに時を刻む。
ふと横に目を向けると、真っ青な顔をした彼が視界に入った。
今にも泣きそうな顔。
いや、きっと泣くんだろう。
彼は泣き虫な人だから。
「泣かないで」
本当はすぐにでも駆け寄りたいけれど、あたしにはもうできない。
自分でわかるの。
あたしはきっとこのまま死んでしまう。
最期というのは、こんなにあっけないものなのだろうか。
そんな落ち着いた気持ちと同時に、様々な思い出が頭を駆け巡る。
これが走馬灯っていうのね。
あたしの生涯の思い出は『彼』と過ごしたかけがえのない月日。
忘れないように、この胸に刻みこもう。
最初のコメントを投稿しよう!