思い出

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彼と始めて会ったのは、雪の降る寒い日だった。 あてもなく途方に暮れていたあたしに、彼が話しかけてくれたのだ。 凍えるように冷たい手足を温めてくれて、優しく微笑んでくれた。 あの時のことは、今でも鮮明に思い出せる。 あたしには、生まれた時から家族がいない。 両親の顔さえわからないあたしを、優しく抱きしめてくれたのは彼だけだった。 ずっと一人だった。 そんなあたしに、人の温もりを教えてくれた。 彼の胸はいつだって温かくて、あたしの心を幸せでいっぱいにしてくれる。 自慢の長い髪を優しく撫でては、「綺麗だね」と褒めてくれた。 嬉しかったんだ。 誰かに褒められたことなんて、一度もなかったのだから。
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