思い出

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彼はあたしを「クルミ」と呼び捨てで呼んだ。 彼に名前を呼ばれるたびに、体中が心臓みたいにドキドキする。 何年たっても、慣れることはなかった。 誰が呼ぶ「クルミ」より、彼が呼ぶ「クルミ」が好きだった。 彼が家族と喧嘩をして家を飛び出した日、あたしは彼を探しに出かけた。 彼の行きそうな場所に行き、ひたすら探してみる。 だけど、どこにも彼の姿はない。 もしかしてと思い、あたしと彼が出会った場所に行くと、彼の姿があったんだ。 心配した。 でもそれ以上に嬉しかった。 あたしに気づいた彼は「心配かけてごめん」と呟いた。 あたしは彼に駆け寄り、声をあげて泣いた。 あの涙の意味。 わかってくれたかな? あたしとの場所を忘れないでいてくれてありがとう。
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