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それは唐突だった。
目覚めると広く高い天井が僕を見下ろしていた。
仰向け状態のまま僕、水木光輝(ミズキミツキ)はその天井を観察する。いくつもの照明がぶら下がっていた。が、どれも照明としての仕事を果たしてはいない。しかしくっきり天井が見えていることから今が夜でないことが想像ついた。そしてひとつふたつ、天井にバレーボールが挟まっているのを見て、僕はようやくここが体育館であることを理解した。
だが不思議だ。どうして僕は体育館で寝ていたりなんてしたんだろうか。少しも記憶にない。僕はとりあえずと体を起こし辺りを見渡す。そこいらに男性女性が転がっていた。僕はもう一度寝た。
「起きろーっ!」
不意にほっぺを何者かに引っ張られ仕方なく重い瞼を開る。目の前にはよく知った顔がさかさまに僕を見下ろしていた。
「痛いです、金原さん」
「痛くしてます、光輝さん」
僕の訴えに女の子はにっこり笑ってそういった。頬を抓る小さな手を退かし、再び起き上がり女の子を見る。彼女は落ち着いた顔で僕を見ていた。
彼女は金原朱莉(キンバラアカリ)。黄色のパーカーにショートパンツ、前髪をヘアピンでとめたショートヘア、背丈は僕の肩あたりまであるかないか、目はぱっちりと丸く顔は幼く小さい、そしてうちの高校の人気者として君臨する美少女にして僕の幼馴染。といっても高校に上がってからはすっかり疎遠だったりするわけだが。
「ふへへっ。どうしたの~、光輝? おたふくさんみたいにほっぺ真っ赤にして」
「どんだけ力こめて抓ったんだよ。一気に眠気がさめちゃったじゃないか」
「じゃあ私に感謝しなきゃねっ! なんたって起こしてあげたんだから!」
「迷惑をありがとう」
「おぉすごい……。有難迷惑って言われてるだけなのに私まるで感謝されたみたいだ。やるねぇ光輝!」
まったくやってやったぜ的気分になりませんよ金原さん。
「と褒めるのはここまでだよ、光輝ぃー。なんで起きてすぐ寝たのさ?」
と金原は先ほどと打って変わり怒りの表情を浮かべる。恐ろしく恐くはない。
「いや、まわりみんな寝てたから」
「集団心理……っ!」
人とはそういうものです。
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