敗北痛感

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 それにしても実感する。  圧倒的不利。僕らはこの世界で戦うにはアウェー過ぎる。過去の僕らのホームなのに。  もうここは僕らの世界じゃない。少女の世界だ。奪われた。僕らの過去を。そんなふうに僕は考えた。まるで海藤みたいだ。  けど、本当は違う。奪われたんじゃない。僕らが捨てたんだ。  僕らは昔とは違う。差はあれど僕らはみんな過去とはどこか変わってしまっている。戻る気はない。この世界に、過去に未練はない。そう考えているのは僕だけだろうか?  ずっと牢屋で地道にレベル上げをしてきたおかげで僕はとうとうボスを追い詰めていた。ゲームの話だ。ゲームはいい。努力がまさに結果を生む。才能より努力の世界だ。もしも僕がこの『モンクエ』の主人公ならきっと……。  いや、変わりやしないか。そもそも僕に主人公は向いてない。僕は友情を優先しないだろうし、隠された宝箱を見つけ出せないだろうし、魔王を倒せないだろうし、間違っている人を説教できないだろうし、美少女を攻略することはできないだろうし、大きな選択もできないだろう。 「あ」  また油断して負けてしまった。最後の僕側の攻撃が外れてしまったのが予想外だ。どうやら僕には運すらないのか。  カチッと電源を落とす。ボスの目の前でセーブしてあるのだ。  こんなずるい手使う羽目になるなんて、やれやれ、痛感するね。  喉に引っかかる魚の骨のような敗北を。
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