第一章 呼ぶ声

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「あー……就職難だ……」 目に鮮やかな程に澄み広がっている青空の下。 冬特有の身を裂かんばかりの冷たくも鋭い風が通り過ぎていく中。 寒さを和らげてあげようと熱く輝いている太陽の光を浴びている公園。 高くそびえ立つビル群の合間にある、遊具は少なめで緑の多いその公園のベンチに、力の入ってない声を漏らした人物は、いた。 焦げ茶色のベンチの背に両腕を伸ばし上半身全てを預け、顔は空を仰ぎ、両足はだらしなく広げられて投げ出されている。 腰にかかるまで伸ばされたモカブラウンのウエーブのかかった髪は、冬風に遊ばれるだけ遊ばれてぼさぼさになっていて。 着ている黒のスーツを見るからに、その人物――彼女はOLなのか、と思いはするが。 力無い発言は就職活動をする者の台詞だった。 「バブルゥー……。バブルはどこいったんだ……。どっかいってんならカムバックバブルゥー……」 魂まで口から漏れ出ていってしまえるのではないかと思える、力の無い声。 体勢だけでなく声まで力の無い彼女……だが。 「信じられない!! バブルどうのこう抜きにしてもさ!? 一週間で十社!! 十社も受けたのに面接時でぜーんぶ落とされるってどういうこと!? 何現象さ!? それとも何!? 私呪われてんの!?」 突然勢いよく顔を上げると声を張り上げだしたじゃないか。 叫びともいえる声の音量に、近くに餌をつつきに来ていた鳩は驚き飛び去っていき。 遊びにきていた子供達は、怪訝な目を向けてくる親によって彼女から距離をとってしまう。 「世知辛い!! あー、助け合う世の中だってのに世知辛い!!」 両手で頭を抱えて再び空を仰ぎ見る彼女。 そんな彼女の背後に、勇気あるというか興味からなのか、誰かが一人寄ってきた。
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