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「遅れまして申し訳ございません。」
ようやく待ち人来たり。
口では謝罪をしているが、態度は特に悪びれもしていない。
「こちらとしても早くに対応したかったのですが、何分急な話でしたから、こちらも……って貴方!」
ようやく織田家の使者とは誰かを悟ったようで、急に大声をあげて巽を指差す。
それを気にもとめず、巽は深々と頭を下げた。
「本来は昨日するべきでしたが、名乗るのが遅れまして申し訳ございません。私は織田家が家臣、天津四郎と申します。浅井長政殿。」
その丁寧な物言いでようやく今がどのような場かを思い出したかのようだ。
「面をおあげください。私も昨日は名乗りませんでした故、お互い様です。私は小谷城が城主、浅井家現当主、浅井長政と申します。」
そう言うと、浅井長政はすぐに
「皆、この場は私だけで問題ない。各自の仕事に戻ってください。」
と、通常なら考えられない指示を与えた。
「と、殿! 相手は他家の侍ですよ! 正気ですか!」
一瞬にして、使者の前であることも忘れて家臣はざわめき始める。
実際、敵にもなりうる侍に当主が一人で会うなど正気ではない。
「問題ありません。彼は私に危害を加えることは何もするわけがありません。何故織田家の使者として名乗ったのか、考えなさい!」
一喝。
しかしそれは当たり前のことだった。
織田家の名前を出している以上、織田家の者が当主を暗殺、なんてした日には、風評低下どころか今では格下である相手に恐れをなしたと桂花は天下の笑い者だ。
「そんな、あり得もしない状況に怯えてないで、あり得る問題に当たりなさい。以上!」
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