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「桂花、入っていいか?」
巽は部屋の前で部屋の主にそう訪ねた。
普通に考えれば主君に対して敬語もなければ諱で呼ぶ等した日には打ち首にされてもおかしくないところではあるが、うつけと評される桂花としては、寧ろそうされたほうが気が楽でいいそうだ。
「巽か。遠慮せず入れ。」
巽としてもその方が楽ではあるし、桂花が望む限りはフランクぎみに対応するようにしていた。
それは巽が暇を乞う前からそうであり、帰ってきた後も変わることのない関係だった。
「これ、いつまでも立っとらんでここに座らんか。」
そう言いながら指差すは自分の隣。
巽は少しだけ考えたかそれでも桂花の隣に座った。
その場所からは、岐阜の街を一望出来、それは稲葉山であった頃よりはより栄えているように見えた。
「織田家のもともとの力は、商業じゃからの。ここ岐阜の街でも商売が盛んになるように色々と策を講じたのじゃ。一応、楽市楽座と呼んでおる。」
誇らしげな顔をしながら、最愛のことのように目を輝かせながら語る桂花はさながら子供のようだった。
「不思議なことに、どこも昔からのしきたりに囚われて商売は賑わないし、それに大体がすぐに金を軍備に当てたがるからの。民の生活、お金、ものの流れを真っ先によくすることが上作だと気づくものは少ないのじゃよ。最もそのおかげで今の岐阜の街があるというのは、ある意味皮肉じゃがの。」
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