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「ここが、小谷城か。」
城下町が華やかなのに対し、小谷城は決して見た目に驚くような出来ではなかった。
門や塀はあるものの、石垣のように頑丈な作りでもなく、どちらかといえば砦とも言えなくはない感じだった。
亜璃栖の調べによるところでは、一つに朝倉という大物がバックにいたこと、もう一つに六角とは停戦が決まっており、美濃は道三が尾張に執着していたためあまり攻められる心配がなかったこと、最後に城下町を栄えさせることが優先されたための、この有り様らしい。
とはいえ、現在は斎藤家は存在せず、近隣は織田家となっているからか、改修が急ピッチで進められているようだ。
ところどころで職人が工事をしている風景が目にとれる。
「さよう。ここは小谷城である。」
巽のつぶやきにさっと答えたのは、その城門前に立つ、いわゆる門番である。
やはり帯刀はしておらず、手には素槍。
「して、いかようか。どこぞの武士よ。」
答えながらも、巽に槍先を向ける。
「私は織田家が家臣、天津四郎と申す者。織田からの使者として参った。浅井長政殿に取り次いでいただきたい。」
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