1章

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駅は人で溢れていた。 右を見ても左を見ても人で埋めつくされている。 この非日常な空間が、あたしにも当たり前になると思うと興奮した。 田舎では味わえないことが、この街の普通なのだ。 慣れないながら乗換えを数回繰り返し、歩くこと数分、目的地のマンションの前に到着した。 「早かったな」 マンションのエントランスから声が聞こえた。 「待っててくれたの?ありがとう」 彼は白い歯を見せて笑う。 「忙しいって言ってたから、来てくれないかと思ってたよ」 「一人でも多いほうがいいと思って、昨日徹夜したからね」 少しクマの残る目元に小さな皺が寄る。 あたしはこの優しい皺が大好きだ。
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