悲しみを溶かすにはどんな熱が必要なのだろう

4/6

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
それを盗み聞きした彼、仁王がその日からうざく話しかけてきたのを覚えている。そこから私達の友人的交際は始まった。そのおかげでなぜかテニス部の人と仲良くなり、切原くんにはなぜか姉さんとまで呼ばれるようになった。 「ば、か じゃな、い 」 咳き込む喉に鞭をうち、絞りだした声はか弱くて小さくて自身の実力を感じさせられたみたいだった。 「おうおう、無理せんでええ、筆談やるか?筆談ホステス!」 彼は笑いながら少し前までテレビに引っ張りだこであった、耳が聞こえない人を取り出してきて笑った。その行為はよくないんだろうけど、さっきの友人達の優しさより安心した優しさが滲み出てきて、泣きそうになった。ありきたりだけど鼻の奥が優しくつーんとする。それしか表現方法がない。口の中でぼそ、っと聞こえないようにありがとうと呟いた。彼はそんな私のこともお見通しのようで「おーう、よしよし」と言って頭をぽんぽんと撫でてくれた。この行為を中学時代からで懐かしさを感じて思わず我慢していた涙をぽろりとこぼしてしまった。 「…なんじゃ、そんなにさびしかったんか」 ぎゅう、と抱きしめられるとさらに溢れてくる。認めなくないけど、気付かせてしまった事実。隠しきれない。詐欺師に詐欺を働くのはまだ少し早かったようだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加