2人が本棚に入れています
本棚に追加
「ククッ…。そんなに驚いた顔をしなくても…。」
鳩が豆鉄砲をくらったように、ポカンと口を開けていた私は、その声に我に帰る。
「あっ…、えぇっと…。」
「…綺麗だよね、この桜。他に咲いている、どの桜よりも…。」
「そうですね…。」
みんなは見向きもしないけどね、と彼は付け足した。
今度は二人で。
しばらく、静かに桜を眺めていると、彼が口を開いた。
「…そろそろ行くね。係とか、仕事があるし。」
「あっ、はい…。」
バイバイ、と手を振りながら踵を返した彼の背中を。
ボーっとしながら見つめていた。
彼の後ろ姿が人混みに紛れた頃。
そういえば。---
「名前…、聞いてなかったな…。」
今日という日。
それは、ただの物語の序章に過ぎなかった。
―
――
――――
――――――――
最初のコメントを投稿しよう!