第1章__桜

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「ククッ…。そんなに驚いた顔をしなくても…。」 鳩が豆鉄砲をくらったように、ポカンと口を開けていた私は、その声に我に帰る。 「あっ…、えぇっと…。」 「…綺麗だよね、この桜。他に咲いている、どの桜よりも…。」 「そうですね…。」 みんなは見向きもしないけどね、と彼は付け足した。 今度は二人で。 しばらく、静かに桜を眺めていると、彼が口を開いた。 「…そろそろ行くね。係とか、仕事があるし。」 「あっ、はい…。」 バイバイ、と手を振りながら踵を返した彼の背中を。 ボーっとしながら見つめていた。 彼の後ろ姿が人混みに紛れた頃。 そういえば。--- 「名前…、聞いてなかったな…。」 今日という日。 それは、ただの物語の序章に過ぎなかった。 ― ―― ―――― ――――――――
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