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ふと視線を感じて大和が顔を上げると生け簀かないハゲ野郎がタコのように顔を真っ赤にしてこっちを睨み付けていた。
今年で四十前半になる細身で神経質そうな顔をしたおっさんで、数学の教師のくせに白衣を来ているのが特徴だった。
またタコがゆで上がってるぞ、とか、火元は柊じゃん?かわいそー。と周囲に囁かれている。
「柊、私の話が聞きたくないなら出ていってくれてもかまわないんだがね?」
いいんすか?と思いながらも大和は苦笑いを浮かべながら取り敢えず頭を下げてすいません、と言っておく。ある程度の分別は身に付けているつもりではあるから、適当にあしらっておくことにした。
架陵院璃暖と婚姻とか、普通に考えたら有り得ないんだよな。
大和は自分が第二種人権にカテゴライズされているし、相手の璃暖は特権階級でカテゴライズすらされていない。そんな二人が今後知り合いになるなど絶対に有り得ないことだった。
璃暖は大財閥令嬢として今も世界中のどこかを飛び回っているはず、と勝手な予想をしていた。多忙極める少女の生活とはどんなものなのだろうか。 婚姻云々よりも大和は個人的に璃暖が気になって個人情報開示申告を許可すると、メールが開封された。
ハゲタコの目を盗んでメールを素早く送る。
今授業中だからまたあとでね。
その一言だけだったのだが、暫くするとメール着信が入った。
几帳面なのか暇なのか、またはその両方なのか。親譲りの冷静さで相手の今の状況を推測して大和はメールを確認しようとしたところでチャイムが鳴り、午前の最終授業である二限が終了した。約一時間ある昼休みに入り、大和は鞄の中から銀色のパックを片手にエネルギー補給飲料を付属のストローで飲み干す。甘いゼリー飲料だがこれだけで補給は完了する。
教室にいるほとんどの生徒がエネパックで急速充填を行っている。
とりあえず暇になったのでメールを送信することにしようとすると、クラスに五人しかいない他の男子生徒たちが大和に「ちょっくら行ってくるな」と声を掛けてから身体検査に出ていった。
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