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男達が畑仕事をしている傍で小さな子供達が遊んでいる声。
戸口からは女達が布を織る音がする。
すごく小さくて、貧しくて、でも子供だけはたくさんいるような、よくある村。
それが、俺の故郷。
やっと帰って来られた。
思わず安堵の溜め息が漏れる。
友達は元気だろうか。
妹や弟たちは皆どんな風に成長したのだろうか。
病で皆死んでいないだろうか。
そう思い、自分の家に向かったとき、少し前に見慣れた背中が見えた。華奢だけれど、弱々しいわけじゃなくて、柔らかで温かな母の背中。
うれしくなって、俺は母さんに駆け寄った───────────
そこで目が覚めた。
いつもそうだ。
俺が母さんに駆け寄ったところでこの夢は終わる。
この夢が作り物であることもわかっている。
なぜなら、
母さんは俺が身売りした次の秋に流行病でしんだ。
村の人間はほとんどしんだらしい。
帰る場所の無くなった俺は、この場所で躰を売り続けている。
表向きは極楽でも裏は地獄。
綺麗な花だって枯れれば塵屑。
まだ夕刻になったばかりであるにも関わらず、客引きの声などで既に騒がしく、どの見世もつくりものの光で溢れていた。
「今日はアイツ、来るんでしょうかねぇ…」
俺の呟きは、雑踏に、溶けた。
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