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「……広いんですね」
「第一声がそれか」
横を向き苦笑すれば微かだが微笑み返してくれた。
──どうやら、心はまだあるらしい。
「あの、お仕事は……何を?」
「あー、原田株式会社って所の社長やってんだ」
「しゃっ、社長さん!?」
短く「ああ」と答えれば肩が多少濡れた背広をハンガーにかけ、冷蔵庫をあけてお茶をついでテーブルにおいた。
「とりあえずそれ飲んで……いや、スエット貸すからそれ来て来い」
灰色の可愛さの欠片もないスエットを渡し、風呂場に案内する。
ーーーーーーーーーー
「……あの人優しい。だけど、スエットおっきいなぁ……」
スエットを着るために纏っていた服を脱げば至るところにある痣が胸を痛める。
「早く上がろ……」
自分の体を見たくなくて早めに風呂をでる。
──まあ、30分かかってしまった。
「あ、下着……どうしよう……」
一人で呟き脱衣場に入りウロウロしていると目に入ったのはドライヤー……。うん、しょうがないよね。
──ゴオオォー
ーーーーーーーーーー
「あー……ったく、疲れたなぁ」
しきりに欠伸を噛み殺していると、風呂場からドアの開く音がした。上がったか、と思っていれば灰色の毛玉が転がって……いや、歩いてきた。
「お風呂、ありがとうございました。えっと、原田さん」
「おう。お茶飲んじまえよ。あぁ、ココアがいいか?」
「いえ……お茶で充分です」
風呂の後でほのかに赤くさせた頬を持ち上げて笑っていた。
向かいのソファーに座れと促し座らせれば本題を持ち出す為に乾いた喉を潤す為にもう一つのコップに手を伸ばして喉を潤した。
「さて、なんで家出したんだ?」
「……暴力、です」
「父親が、か?」
「再婚相手に、です。母はもう……」
──死んだのか。んで、再婚相手が暴力ふるうってのか。
「もう言わなくていい。わかった。」
内心ホッとしたのか小さくため息を吐き、再びお茶に手を伸ばしていた。
本題を切り出す為に口を開けば携帯が鳴り出し、表示をみれば部下の名前が書いてあった。
「わりぃ、ちょっと電話だから黙っててくれ」
「あ、はい」
承諾を得て電話に出ると案の定先日頼んだ資料作成の報告だった。
「……ああ。できたなら朝イチに机に置いとけ。ああ、ん。じゃあな」
ま、無事終わったらしい。
「飯はなにがいい?」
「あっ、私がやります!」
「ああ? 得意なのか?」
はい、と初めて柔らかく微笑んだ。
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