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白米に、味噌汁、なすのしぎ焼き、鶏肉の梅和え……。
──なんで俺の好きな和食なんだ。
「どうぞ、食べてください。美味しくないですが」
「いや、充分上手そうだよ。……匂いだけでも」
箸に手を伸ばした時、
──プルルルル、プルルルル、プルルルル
「また、電話かよ……」
──プルルルル、プルルルル、プル……
「あの、切れちゃいましたが良いんですか?」
「今は飯の時間だからな。後でまたかけ直すさ」
女は心底驚いているように見えたが俺にとっては普通のことだ。一口含んで味わってみる。
「……うん。上手いよ」
まるで向日葵が咲いたかのように顔を綻ばせ「よかったです」と呟いた。しかしすぐに表情を変え、申し訳なさそうに「あの」と小さく声をかけられた。
「……ああ。なんだ」
──箸を、置いた。
「私は綾加と言います。私を、暫くここにおいて頂けませんか!? 新しい部屋を見つけるまででいいんです!! 学校辞めて働きます!! 家賃も払いますから!!」
──一息で言うか。
真っ赤になりながら正座をして一生懸命訴えているのは見てわかる、わかない奴はいないだろうな。
「……駄目だ」
怒った声で告げれば、がばりと身を起こし悲しそうに表情を変えれば……。
「やっぱり、そうですよね。……見ず知らずの人にこれ以上迷惑は……かけられませんよ、ね……ヒック」
また、泣きやがった。
「家庭の事情はわかった。だが、学校には行け。門限は7時、破ったら家に入れねぇからな」
「そうですよね……。やっぱり駄目ですよね…………え?」
「なんだ、門限7時じゃ不満か?」
「いえっ。ありがとうございます! 本当にありがとうございます!!」
──ま、暫くおいてやるか。
「はいよ。よろしくな……綾加」
「はい!」
……笑った顔が可愛いのは間違いないな。
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