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「……ッ!」
こんな近くで見たこと無い…。
「なにしてるの、早く逃げるよ」
多分顔を真っ赤にしているだろう私の手を引いて走りだす目の前にいる学園王子。
きっと私死んでるんだ…。
これは夢なんだ…。
そう思わないと失神しそう。
“あの”学園王子が“私”の手を握っている。
これが学校にバレたらそれはそれは大変な事が起きるだろう。
いや、学校だけじゃない。
他校の女子様からも攻められてもしかしたら週刊誌なんかにも載ってしまうかもしれない!
そんな事態になったら私はこの世界で生きていけない!
それでも…
目の前にいる自分のために一緒に走ってくれている学園王子の後ろ姿を見ているとどうでもよくなってしまう。
――あぁ。
これが夢でも現実でも。
私の事を知っていても知らなくても…。
今この人は私の手を握っている。
冷たいのか温かいのかよくわからない温度が伝わってくると余計に実感させられるそれを、私は幸せだと思う。
明日が怖いけれど。
今が幸せだから。
今を楽しもう。
うん、そうしよう。
「はぁ…もう平気かな」
ポヤポヤとそんな事を思いながら学園王子を見ているといつの間にか後ろには誰もいなくなっていた。
意識を自分に戻してみると自分も随分息がたっていて…
多分結構な時間、走っていたのだろう。
それなのに前にいる王子は息一つたっていなくて。
「疲れた」なんて言いながら髪をかきあげている。
そんな仕草で今まで何人の女子を落としてきたのだろう。
すると私の視線に気づいたのか目線がバッチリと合う。
な、何か言わないと、
あ!お礼!お礼言わないと!
「あ、あの…王っ、じゃなくて…冴嶋君。あ、ありがとう…」
なんてぶりッ子してみる。
あー今のは気持ち悪かったかも…。
「あ!あの…その私の事なんか知らないと思うけど…その、一応同じクラスで…」
自然と早口になる私。
だって視線を感じるから。
あの学園王子の視線が私にむいているから。
「いや…別に責めているわけじゃなくて。むしろ知らなくて当然というか…そんな私目立つ存在じゃないし…」
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