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「卓哉はどうして欲しいの?どうすれば納得するのさ。」
「藤志が俺のものになればいい。」
「ええ…」
即答したよこの人。
隣の家族連れにガン見されてるよ。
どうしたもんかなぁ…。知ってはいたけど、本当にこの子おれのこと好きね。
「俺のものって具体的には?ゆうさんの気持ちを断って卓哉とだけ仲良くすればいいの?」
「近いけど違う。」
「どう違うの。」
「あの平凡も、翼さんも、他の誰も藤志には近付かせない。で、俺だけが藤志を可愛がる。」
「そ…っ」
それは難しくね…?
近付かせないってどの程度なんだろう。物理的な距離で5m圏内に入れるなとかだったら、普通に社会で生きていけない気がする。
隣で母親が娘の耳を塞いで「あんたにはまだ早い!」とか言ってるのはさておき…。
「おれはちゃんとゆうさんと話すよ。そんで、真面目に返事もする。それもダメなの?」
「……。」
「どんな結果になろうと、少なくとも卓哉が親友なのは代わりないよ。」
「親友じゃ…」
「ん?」
卓哉が泣きそうな顔をした。
苦しそうな、必死で我慢しているような。
大学のトイレで見たのと同じ顔だ。おれはまた何か間違ったのだろうか。
「…悪い、翼さんとのことはちゃんと見守るつもりだったんだ。でもやっぱ、俺の知らない所でお前が誰かにそういう目で見られてんのすげぇ嫌だ。」
「卓哉…。」
「藤志は悪くない。責めるつもりはなかった…ごめん。」
あの時もそうだった。
めっちゃしんどそうにしてる癖に、お前のせいじゃないって言ってくれて。…絶対おれが原因なのに。
こんな顔もうさせたくない。
そのためにはやっぱり…
「おれ、ゆうさんと話してくる。」
「え…」
「こうやってあやふやなまま悩んでるから、不安定な気持ちになるんだ。だからさ、待っててよ卓哉。結論が出たら伝えに行く。」
「…藤志。」
「それまでは少し我慢して?お願い。」
上目遣いで、と言うより身長差的に自然とそうなるのだが、とにかく真剣にお願いをした。
隣の家族連れも両手を握り合わせて見守ってくれている。なんでだ。
卓哉はしばし口をへの字にして黙り込んでいたが、最終的には「分かったよ」と承諾してくれた。
「良かったぁ。じゃあおれ早速ゆうさんに連絡してみる!」
「え。」
そうあからさまに嫌そうな顔するなよ。
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