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じっとりと絡み付いてくる卓哉の視線を無視してゆうさんへのメッセージを入力していく。
こういうのはやっぱ早い方がいい。
恥ずかしいし、先伸ばしにしたくなるけど、いつまでも逃げてらんないし。
てか、ゆうさんと今の気まずいままでいたくないし…。
『今週どこか時間空けられませんか。ちゃんと話しましょう。おれは、ゆうさんの気持ちがちゃんと知りたいです。』
…こんなもんかな。
ドキドキしつつ、えいっと送信ボタンを押す。
すると秒速で既読が付き、
『明日夜シフトだよな。俺も入ってるから、バイトの後話そう。』
と承諾のメッセージが。
よし、第一関門クリア!!
思わずぐっとガッツポーズをしてしまい、卓哉から何がどうなったんだよこの野郎的な鋭い目を向けられた。
ちょっと怖かったので、仕方なくスマホの画面を斜め上に向けて報告を行う。
「…こ、こうなったよ。」
「ふぅん。じゃあ俺も明日ついて」
「来ないでね!?」
「む。」
被せ気味に卓哉の発言を否定すると、ハムスターみたいにほっぺを膨らませてむすっとされた。
またそれか!くそぅ、可愛いけど!可愛いけどついて来るのはダメでしょ!!
「とにかく、おれはゆうさんと話をつけてくるから。卓哉は怒んないで待ってて。」
「んー…。」
「ね?」
卓哉を宥めようと必死で頼み込む。首をかしげて念押ししていたら、隣の奥さんが「かわ…っ」と嬉しそうな声をあげた。皮?
結局卓哉が唸っている間に最寄り駅に着いてしまった。
…って、君はまだ一駅先でしょ!なんで一緒に降りようとするの?
慌てて卓哉を電車の中へ押し戻そうとするが、逆に肩を強く抱き寄せられて二人仲良くホームへ降りてしまった。
ええ…?
卓哉の奇行に動揺していると、耳元で何やら囁き声が。
「明日、その後必ず…一番最初に俺に会いに来い。いいな?」
ぞくっとするような低音。
いい声の男はモテるって聞いたことあるけど、今初めてなるほどって実感したわ。
抗えない謎の引力に引き寄せられるように、おれは反射的にこくりと頷く。
それを見届けるとくしゃくしゃと優しくおれの頭を撫で、いつもの無気力で眠そうな目を細めて笑ってくれた。
良かった。
もう機嫌は直ったみたい。
…ん?
なんか今、動き出した電車の中から例の家族によって生温かい視線が向けられたような…?
気のせいだよね。
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