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「掃除が大変なんだよ。この花。」
真横で聞こえた声にぎょっと振り向くと昨日会ったこの家の主が横に立っていた。
「いらっしゃい。」
「っーお邪魔してます…。」
やっと出た一言がこれだった。
彼はわずかに微笑むと再び木に視線を向けた。
「昨日もこの木を見に来てたのかい?」
「あ…はい。気になって。」
花びらを拾ってここまで来たことを話すと彼は少し驚いたようだった。
「不思議だな。見ての通り、この花は大きくて重たいからそんな遠くまでは飛んでいかないんだけど。」
「でも…飛んできましたよ?」
そう言うと彼は面白そうに笑った。
「この花は白木蓮と言うんだよ。」
「はくもくれん?」
ここより都会にいた私が植物のことなんて知るはずもない。
見かけても何とも思わなかっただろう。
「木蓮科の花でね、開花時期は三月のはじめから四月のはじめ頃まで。開花しているときの風景は白い小鳥がたくさん木に留まっているように見えると言われている。」
「私も最初は鳥かと思ってこの木に近寄りました。」
彼はそうかいと笑って地面に落ちている数枚の花びらを拾う。
なんとなく手伝った方がいいような気がして私も一緒に拾う。
今落ちている花を全て拾うと彼は立ち上がり家へと踵をかえした。
「え?」
私はどうすればいいのかとうろたえていると、彼がこちらを向いて一言、
「おいで。」
と、言って手招きをした。
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