白木蓮

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満足そうに彼は微笑む。 それが彼の名前だと認識するのには少し時間がかかった。 「君は?」 囁くように放たれた言の葉に操られるように私の唇は動く。 「日下部 奈瑞菜。」 「くさかべ なずな?」 確認をとるかのようにゆっくりとした口調で問いかけてくる彼に頷いてみせる。 「奈瑞菜、奈瑞菜、なずな…」 そんなに繰り返さないでほしい。 少し恥ずかしくなってきた。 今だ呟いている彼を見つめていると彼の呟きがピタリと止まった。 そして、こちらを向いて、 「なず。」 と、笑みを孕んだ声で囁いた。 妹からもそう呼ばれている。 なのに、身体中を血が駆け巡るように熱くなった。 目を彼からそらせない。 動くことができない。 音が聞こえない。 聞こえるのは 「そう呼ばせてもらおうか。」 彼の声だけ。 「君は?」 他の音なんて聞こえない。 「君は俺のこと、なんて呼んでくれる?」 他に聞こえるものがあるとすれば、 「えっ、と。」 それは、 「き の、さん…?」 異常なほど早く脈打つ、 「かまわないよ。そう呼んでくれて。」 私の心臓だろう。
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