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「え?」
シャーペンをたどって見上げると扉を開けた本人がシャーペンを持っていた。
「ん。」
「あ、ありがと。」
つき出されたシャーペンを受けとると、その人は私の隣の席に座って机の中をあさりだした。
「…樹君(いつき)忘れ物?」
「そう。」
机の中に置いて帰られている教科書を机の上に置いていく、
朝比奈 樹(あさひな いつき)
は、女嫌いと噂されている。
地毛であろう明るめのふわふわした髪に整った顔立ちは、男前というより可愛らしく、入学当初から女子に人気だった。
2クラスしかない学年で注目され、女子から黄色い声で話しかけられる。
普通の男子なら喜びそうな状況だが、彼は違った。
話しかけてくる女子にドスのきいた声で、
「キーキーキーキーうるさい。猿。」
と言ったそうだ。
次の日から彼は女嫌いと噂になった。
そんな彼とはここに来て一ヶ月間個人的な会話をしたことはなかった。
ただ、席が隣ということでまれに彼が教科書のページを聞いてくるくらい。
「ねぇ、それ日誌?」
「え?あぁ、うん。」
ぼーっとしていると彼が日誌を覗きこんできた。
「ふーん。五時間目の授業うるさいやつがいたってちゃんと書いとけよ。」
「う、うん。」
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