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その部屋にあったのは足場がないほどの布、布、布。
色鮮やかな布、色んな模様の布がそこらじゅうにある。
足場なんて気にせず季乃さんが座った場所にはたくさんの裁縫道具がある。
部屋の隅には机があり、その上には大きなミシンがある。
「服を作っているんだよ。俺は。」
そう言いながら彼は近くにあった紙を手に取った。
「さて?何を作ろうとしてたんだっけな、俺は。」
「…知りませんよ?私、そんなの。」
私が知るわけないじゃないか。
すると季乃さんは気怠げにそこら辺に散らばっている紙に手を伸ばした。
「……違う…。」
紙を見ると季乃さんが顔をしかめて呟いた。
何が書いてあるんだろうと思ったとき、
呼ばれた。
「奈瑞。」
その落ち着いた声で。
「五月って書かれた紙探してくれないか?」
「紙?」
「そう。そこら辺にあるから。」
言われて見渡すと確かにそこら辺に紙が散らばっている。
季乃さんを見ると、自分の周りにある紙を手に取って「これは違う。」「これも違う。」と呟いている。
足場があまりない部屋でそこら辺にある布を踏まないように紙を集めて一枚一枚見てみる。
紙の内容は服のオーダーのようで、デザイン
が細かく書かれていた。
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