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どこか抜けた感じの空気が読めていないところが彼女のいいところだったのかもしれない。しかし、今日は場違いだった。
「ね、璋篤。今度の日曜の映画さぁ…――」
「今、練習中だろ。けじめつけろ。後で話は聴くから。」
ピシャリと言われた彼女は肩を落とし、小さく「ごめん。」と言って弓を立て掛けに行った。
その光景を見るのもそこそこに自分の番になったので射場に入った。
見たくはないがやはり気になってしまう、2人のやりとり。見た後で後悔するのは目に見えているのに、見ずにはいられない。
知らなきゃよかった、こんなん。
「おい、橘。何を知ったかは知らんが早く打ち起こししろ。後ろが支えてる。」
「え、あ………すみません。」
彼がいきなり後ろから声をかけるなんて。しかも聞かれていたとは。そんな羞恥には浸る間もなく、私は慌てて打起こしし、弓を引いた。
「肘張って。そう。狙いもうちょい下。そこ。」
バヒュン――グサッ
見事に的から外れ、安土に矢が刺さった。
「お前、言われればできるけど最後だな。無意識に体が動いてる。もっと筋トレに力いれろ。」
「すみません、ありがとうございます。」
「次、腰支えててやるからもう1回やってみろ。」
「え」
「璋篤ぁー!!お前次矢取りだろー!!さぼんなぁ!!!!」
彼の爆弾発言に一瞬耳を疑ったが、彼の友達である颯珸先輩が(自覚はないだろうけど)助け船を出してくれたおかげで助かった。そんなところ見られたら彼女に何を言われるか分かったもんじゃない。
「分かってる。今行く。」
周りに聞こえない程度に舌打ちし、私に「悪い」と言って矢取りに行った。指導が中途半端になってしまったのがかなり嫌だったらしい。
鈍感め。と心の中で彼に野次を飛ばしつつ、万更でもない表情をしているだろう自分に叱咤しながら再び的に狙いを定めるのだった。――
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