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懐かしいあの頃の夢をみた。
あれは確か私がまだ高校生の頃の話だった。それは今住んでいる都会と違い、草木とたんぼや畑、山しかないような田舎に住んでいた頃の夢。
1番大切に思えるような時間を過ごした時代だった。
あぁ。懐かしい。
あの頃の私はまだ子供で、親が何を考えているのかも周りが私のことをどう考えているのかも深く考えず、ただ自分が生きたいままに生きていた。
私は周りの目を気にするような子供ではなかった。
だから…
「いらっしゃい」
そう私が言うと自分の部屋の襖(ふすま)が動く。
「よくわかったな。」
そいつは部屋に入り私の頭を優しく撫でる。
「何となく、ですよ。」
私が素っ気なく返しても嫌な顔一つせず私に笑顔を向け、私の隣に座る。
その時間が私は1番好きだった。
でも、それをよく思わない人もいた。
「ぼっちゃんまた1人で話してたらしいわよ。」
「昔からあの子は、何もないところを指差したり笑いかけたり…気味悪い。」
「一家の恥さらしだわ。」
あらゆる私の噂が風を通して私の耳に入る。それはきっと私の隣に座っているこいつにも聞こえたはずだ。
「気にすることはない。たかが人間の戯言だ。」
そいつは私を見つめそう言う。
「ははは、私も人間ですよ。」
「お前は特別。」
「そうですね。私は多分どっちつかずの存在なんだと思います。」
私がそう言うとそいつは、馬鹿ちげぇよ、と言いながら私の頭を軽く殴った。
「痛いです。」
「手加減した。」
鎌鼬(かまいたち)。それがそいつの名前。その名前の通りそいつは妖怪だった。
そして私は生れつき妖怪が見える。
それは私が色んな人から一線ひかれる理由でもある。
だけど私は気にしていなかった。鎌鼬と過ごす時間は楽しくて、楽しくて…しかたなかったから。本人には絶対言えないけど。
でもその楽しくて幸せな時間は、長くは続かなかった。
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