死神さん

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 ぼくは眠りの浅い体質で、生まれて十余年だけど一度だって熟睡というものをしたことがない。看護師さんに言ってみて否定されたけど、本で読む熟睡とぼくの日頃の睡眠を比較すると、どうしても熟睡とは言いがたいのだ。  だから少しの物音で目が覚めるし、それを不快と思わないほど慣れている。そもそも、一日中ベッドで横になっているぼくにとって、睡眠は有ってないようなものなのだ。  ぼくはシニガミさんを歓迎している。なんでこんなところに、なんていうことを言ってはいるが、内心は久しぶりの会話と異性と二人きりという状況にとてつもなく緊張しているし、喜ばずにはいられない。  が、そんなワクワクムードのぼくとは違い、シニガミさんは顔をしかめてこんなことを言うのだ。 「アナタの命を受け取りに来ました」  聞き間違いではないか、頭の中で数十回考えた。結果、判断不能。再度質問。 「……えーと、面白い冗談ですね。この病院で流行ってるんですか、キツいブラックジョークですね」  苦笑いするしかない。病院で命がどうとか、そんなことを真面目な顔で言っていいのは医師だけだ。この病室の外の情報に関しては、看護師さんに疎すぎるにも程があると言われるくらいだが、こんなタチの悪いジョークが出回っているとは知らなんだ。  が、シニガミさんはぼくの言葉を一蹴してしまう。 「冗談でもジョークでもありません。私は死神だと名乗ったはずです。アナタは五日後に死にますので、その命を受け取りに来ました」  ……死、受け取り、シニガミ…………あっ。  なんとも情けないことに、ここで初めてシニガミさんが『死神さん』だと気づいた。
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